グローパリゼーションをめぐっては、賛否両論がかまびすしい。反対意見の中には、経済的効率化を目指す競争が世界レベルで激化すれば、地域や国の社会的伝統や文化が破壊されてしまうという考え方もある。しかし、そのような脅威の存在を認めながらもグロlパリゼIションの本質を冷静に捉えているアマルティア・センの次の言葉には、人間の社会・歴史に対する深い理解と信頼そして希望に支えられた現実主義がある。
グローバル化する今日の世界では、土着の文化への脅威はかなりの程度不可避である。貿易や経済のグローバル化を停止して問題の解決とすることはできない。なぜなら経済的交換と分業の力は、巨大な技術進歩に動かされる競争的な世界では止めることが出来ないからである。近代技術に経済的競争力を与えるのは技術進歩である。これは問題である。しかし、ただ問題であるだけではない。なぜなら、グローバルな貿易と商業は……各国に大きな経済的繁栄をもたらしえるからである。しかし、……そこには勝者もいれば敗者もいるだろう。経済的な格差という意味では、適切な対応は、グローパリゼーシヨンが雇用や伝統的な暮らしをそれほど破壊しない形態にする協調的な努力を含み、変化を緩やかに達成するものでなければならない。変化の達成をスムーズにするためには、グローバル化によって利益が損なわれる人のために社会的安全ネットを提供することに加えて、再訓練と新しい技能習得の機会もなければならない（注1）。

センが強調しているのは、グローパリゼーシヨンの過程で生じる経済的・社会的格差の是正、つまり社会的公正の確保である。この点に関して、ドラッカーは、グローバル企業をコントロールするのは、米国ほどの力を持った国であったとしても、とても一国の手に負えるものでなく、国際社会であること、国際社会がルlルを決めて国際機関が執行すべきであると述べている。

グローバル企業は、国民国家の政府の管理下にないわけではない。政府の言うことには対応していかなければならない。しかしその対応は、グローバル市場とそのための技術についての戦略や行動にとっては個別の行動にしか過ぎない。グローバル企業は自らを、国民国家とは関係のない独立した存在と捉える。……アメリカは、国内法を海外に適用することによって、この流れに対抗しようとする。その典型が……独占禁止法の域外適用である。民事訴訟法、製造物責任法、腐敗防止法によっても、グローバル企業を規制しようとしている。……しかし、グローバル経済をアメリカの価値、法律、経済にはめ込む試みは、結局不毛に終わる。……今まさに、グローバル経済全体が受け入れ可能な強制力のある価値、法律、経済のルlルが必要とされている（注2）。

このような国際的な経済ルールについて、ジョージ・ソロスはさらに具体的に一歩踏み込んだ発言をしている。

グローパリゼーションのために、私的財と公共財の資源配分の比率がおかしくなってきている。市場は富を生み出すことに長けているが、他の社会的ニーズに対応するようには出来ていない。見境なく利益が追求されることで、環境が破壊されたり、他の社会的倫理との衝突が起きたりする。……市場メカニズムに過度の信頼を置くのは危険なことだ。市場は自主的な参加者間でのモノやサービスの自由な交換を助けるためのものであって、法と秩序の維持とか、市場メカニズム自体の維持といった集団的ニlズについて独力で面倒を見る力はない。また社会正義を実現する能力も持ち合わせていない（注3）。